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日英経済の復活

ティム・ヒッチンズ駐日英国大使が、2月3日、東京国際フォーラムで開催された内外情勢調査会全国懇談会で、日英関係について講演しました。

本件は、%{government}で公開されました
Tim Hitchens, the British Ambassador to Japan, gave a speech on the UK-Japan relationship at an event by the Naigai Jose Chosakai held on 3 February in the Tokyo International Forum

西澤会長、ならびに、ご出席の皆様。

本日こうして、皆様を前に、スピーチをさせて頂く機会を頂戴し、日本と英国という二つの素晴らしい国の関係について、また、20年以上の歳月を経て新たな姿を見せる日本について、お話しさせて頂く事を大変光栄に存じます。

私が初めて日本に参りましたのは昭和52年で、昭和55年に学生として日本に戻って参りました。その後、1980年代に外交官として赴任し、一年前、安倍首相が総理に就任される数週間前に、駐日大使に就任致しました。日本のこれまで、また将来を見続けることのできる立場にあることを、嬉しく思っております。

本日、始めさせて頂くにあたり、まず、日英関係について著名な人物が残した言葉をご紹介致します。

その人物とは、徳川家康です。家康は1613年、英国の正式な使節 ジョン・サリスに初めて会い、望遠鏡を贈呈されました。サリスは、日本側に対し、英国との貿易関係の樹立を求めたのです。家康は、イングランド及びスコットランド国王であったジェームズ1世に次のような手紙を書いています。

「日本にはない、素晴らしい贈呈品を頂戴し、国王の、この上なく寛大なご好意を感じる。貴国の船は、日本のどの港にも入港することができ、心から歓迎する。私たちは、この遠く離れた国を容易く発見したその航海術を大いに称えたい。国土は万里の雲海をへだてていても、私たちの領域は誠に近い。」

東京の大使公邸には、家康が英国の使節団に発給した朱印状の複製が飾ってあり、訪れる方々の注目を集めています。

日英関係の歴史は、こうしてスタートしました。強調されているのは、発見、海、新技術、そして、地理的に遠く離れていても、二つの国が協力し合うことです。

私は、日英が最も繁栄するには、両国が大胆かつ外に目を向ける、つまり、海を壁ではなくチャンスと捉えることであると考えます。

日英関係の歴史は、「発見の旅」でした。両国は、お互いの国について、多くの事柄を発見し、そのプロセスの中で自分の国についても、多くを発見しました。日英関係の歴史は「再発見の旅」でもありました; お互いの持つ重要性や意味を忘れてしまったり、改めてお互いについて、学ぶ時もありました。

徳川家康が朱印状を発給してから僅か数年後、日英の通商関係、そして、日本と、ほぼ全ての国々との関係が途切れ、200年以上もの間、その状態が続きましたが、明治維新と共に私たちは、お互いを再発見し、その後40年間、日本の近代化に伴い、かつて無いほど緊密に協力しあいました。しかし、その僅か数年後、日英の同盟は再び終焉を迎え、戦争へと突入しました。私が前回、外交官として日本に赴任しましたのは1980年代ですが、1989年には、日本企業の対英投資が、それまでの最高を記録するなど、日英は、最も親しいパートナーとなっていました。日本の経済が20年間にわたり低迷したことで、そうした二国間関係の重要性に対する理解が、少々弱まる傾向にあったとも思われますが過去にもそうであったように、現在、両国の関係は、再びその真価を発揮する時期を迎えています。2012年のロンドン・オリンピック・パラリンピックの成功、2020年の開催地として東京が選ばれたこと、日英の経済が回復していること、そして、21世紀におけるアジアの重要性などは、両国の関係が、再び極めて強力なものへと復活することを意味します。安倍総理が、日英関係について、「a priori partnership」と表現されました。私は、両国はnatural allies、つまりパートナーであることがごく自然であると思います。

ここで、心強いトレンドをご紹介致します。日英の経済動向を示すグラフをご覧下さい。日英いずれも経済が回復してきていることが分かります。IMFは、2014年の英国と日本の成長予測を、それぞれ、2.4%、1.7%に引き上げました。もちろん、まだ努力すべき課題は残っています。英国では生産性の向上や輸出の拡大、日本では、人口や債務の問題などですが、今は前向きになるべきです。英国経済は世界第6位です。この一年、東証における株式時価総額の上昇は、新たな英国経済が創出される程の規模に匹敵します。

本日は、こうしたテーマの幾つかについて、まずは新しい英国に関して、あまり知られていないことなどを、お話したいと思います。私たちが、アジアの世紀である21世紀を迎える中、英国を魅力的にする数々の事柄や日本について、また、日英が今後数十年間、強力なパートナーシップを構築できる分野、両国関係の可能性をフルに活用できる分野についても述べさせて頂きます。親日のオブザーバーから見た今日の日本について、見解を申し上げさせて頂ければ幸いです。

まず最初に、日本の皆様が英国について、ご存じである事柄から始めたいと思います。

周知のように、英国は国際舞台で活躍する主要国 の一つです。国連の常任理事国として、英国には世界の舞台で、迅速に、しっかりと行動することが求められます。責任を果たすためには、必ずしも好まれる決断に至るとは限りません。間違いをおかすことも、そこから学ぶ必要もあります。昨年8月終わりの、シリアへの対応でも示したように、民主主義と軍事行動の関係を理解する必要もあります。

英国は世界各地に外交官を派遣しており、大使館の数も増やしています。私も、大使として日本に赴任する前には、ロンドンの外務省で、アフリカに4つの大使館を開設する仕事を担当しました。開発支援についても、世界経済が困難な時期をむかえ主要国の多くが支援を削減していますが、英国はGNIを7%に引き上げています。また、英国の軍隊は、アフガニスタンやイラクだけでなく、アフリカや、カリブ海諸国、インド洋、東南アジアなど、他にも多くの地域に駐留しています。英国は、太平洋(ピトケアン島)、インド洋(ディエゴガルシア島)、カリブ海、大西洋(アセンション島とフォークランド諸島)、また、地中海(ジブラルタル)にも領土があります。こうした環境の下、英国は、様々な角度から世界を見ることができます。

ご存じのように、英国は世界有数の製造業を誇る国として知られていましたが、現在は保険、法律、金融などのサービス業 、また、デザインやコンサルタント業で知られるようになっています。先ほども申しましたように、英国経済は、最新のデータによると、世界で6位にランクされておりブラジルと僅差にありますが、現在も世界の主要経済国です。昨年は、G7諸国の中でも急成長を遂げた国の一つであり、日本と同じく景気の低迷から急速に回復しています。

また、英国は多数の国際的な機関に加盟し、協議の場に参加しています: G8、EU、英連邦諸国、 G20 などです。この他にも、マラッカ海峡を守るため、シンガポール、マレイシア、オーストラリア、ニュージーランドとの、5カ国防衛取り決めにも参加しています。

日本の皆様は、今も、英国に対して昔のイメージを持たれているように思われます。例えば、ロンドンには山高帽をかぶった紳士が沢山いるとか 、霧で包まれているといったイメージです。ロンドンを訪問して頂くと、実際は全く違っていることが分かります!霧の原因は住宅の暖房用に石炭を燃料として使用していたからで、私が生まれた1960年代には、既に石炭は使われなくなっていました。山高帽に至っては、どこで売っているのかさえ、知りません!こうしたイメージは、1977年に私が初めて来日した際、すでに時代錯誤とされており、今では歴史の一部となっています。

英国で、特に大きな変化が見られたのは、女性の地位です。1900年には労働力の3分の1にあたる5百万人が女性でした。2000年には就労人口が7百万人までゆっくり増加し、その後約10年間で大幅に増え、現在では全労働力の半分以上にあたる1,200万人が女性です。仕事場で、女性は、もはや少数派ではありません。東京の英国大使館では、職員の75% が女性です。駐日公使も、貿易投資部のディレクターも女性です。この二人が、幹部のポジションに就いているのは、仕事内容が評価された結果です。ロンドン本省で、アフリカを担当していた時にも、アフリカ諸国に駐在する英国大使の半数が女性でした。

この他、皆様は、英国のどんな分野をご存じでしょうか?

英国の魅力の一つは、非常に優れたクリエイティビティ、創造性です。ポピュラー音楽においても、世界中の若者が好む歌を作り、演奏しています。日本は、英国の音楽業界にとり、アメリカに次いで世界で2番目に大きな市場です。英国は、また、優れた映画や本を世に送り出しています。 ジェームズ・ボンドやハリー・ポッターも英国の映画です。ハリー・ポッターは、史上最速の売れ行きを記録し、65の言語に翻訳され、映画のシリーズは80億ドルという世界最高の興行成績を記録しました。

英国は、優れたデザインでも知られており、Miniも、その一つです。ユニオン・ジャック のデザインは、 日本でも沢山のファッション・アクセサリーに使われています。また、ロンドンには、サビル・ロウ(サビル通り)と呼ばれる高級紳士服の通りがありますが、これが「背広」(せびろ)の語源と言われています。更に、 iMac, iPod, iPhone, iPadも、英国人( サー・ジョナサン・アイブ)がデザインした作品です。ファッションについても、ステラ・マッカートニーなどの活躍で、ロンドン・ファッション・ウィーク は、パリやミラノに匹敵するコレクションとなっています。英国人建築家も世界各地で作品を生み出しています。東京の代官山にある蔦谷書店を手掛けたのも英国人の建築家で、この方は日本在住です。代官山の蔦谷は、数々の国際的な賞を受賞し、世界で最も有名な書店の一つです。

発明、発見についても、英国は優れた人材を輩出してきました。1613年に、ジョン・サリスが来日した際、徳川家康に贈呈した望遠鏡は、その僅か5年前の1608年にイングランドで発明されたものです。英国の発見や発明は現在も世界をleadしています。例えば、 DNA、WWW(ワールド・ワイド・ウェッブ)、デジタル・ラジオ、また日本と英国の共同研究が成果を上げたIPS細胞などです。実は、英国人のノーベル賞受賞者の数は、アメリカに次ぎ世界で第2位です。アメリカ人の受賞者数は英国の2倍ですが、人口は5倍です!

ご存じのように、英国は、ヨーロッパで現地生産する日本企業をとても歓迎しています。英国の輸出の約半分は、現在もEU向けであり、英国の首相はEUについて、ビジネス環境の向上や単一市場の促進に更に取り組む決意を明確にしています。日本とEUとのEPA締結が提案されていますが、英国はEU加盟国と共に、これを支持しています。この協定が締結されることで、日本とヨーロッパとの貿易が活性化されると考えています。そのためには、皆様のご協力が不可欠です。

では、ここで短いビデオをご覧頂きたいと思います。

法人税を20%に引き下げる大胆な決定がされました。日本は、英国経済の重要なパートであり、約14万人の雇用が、日本の投資から創出されています。余談ですが、興味深いことに、報道で大きく取り上げられている中国の対英投資がこれまでに創出した雇用は、約3,000人程です。

英国について皆様がご存じの様々な分野に関してお話し致しましたが、最後に、スポーツについて触れずにはいられません。サッカーでは、マンチェスター・ユナイティッドの香川真司選手のような素晴らしいプレーヤーが活躍しています。

このように皆様は、英国の多くの側面について、既にご存知ですが、日英のパートナーシップ、また、私たちの再発見の旅を更に興味深いものにする分野が他にも数多くあります。皆様が驚かれるかもしれない4つの再発見を、ご紹介したいと思います。

まず、英国では、外国人が重要な分野で活躍されており、私たちはそれを大変嬉しく思っています。イングランド銀行の総裁はカナダ人で、世界屈指の中央銀行総裁です。また、恐らく、英国で最も有名な建築家であり、日本にもオフィスを構えるザハ・ハディッドさんは、イラク出身です。彼女は、新国立競技場も設計されましたまた、外国人が多くのトップ企業のCEOを務めています。 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス の学生、および教師の約50%が外国人です。非常に重要な部門でも、日本をはじめ、ドイツ、フランス、アメリカ、中国の企業が事業活動を行っています;具体的には、エネルギー、通信、交通ネットワーク、原子力などの分野です。英国への直接投資は、GDPの約50%を占め、G20諸国中、最も高い割合となっています。これに対し、日本は約4%です。英国が外国からの投資の受け入れに積極的なのは、世界の優れた企業に英国で事業を展開してもらいたいと考えているからです。

英国の経験から、外国の投資を歓迎することが、経済成長や雇用の創出につながり、 クリエイティビティやイノベーションがもたらされると、証明されています。より多くの日本人科学者、カナダ人の銀行家、ブラジル人の広告主などを受け入れることが、より良い英国の実現を可能にします。もし、皆様の企業が英国での事業展開を検討しておられ、その事業に必要な特定のサービス、専門知識、技術などを探しておいででしたら、英国政府が皆様に代わり、英国企業4万社に、そのメッセージを届けることができます。詳細については、皆様に配布させて頂いた資料をご覧頂ければ幸いです。

第2に、環境です。環境問題の重要性が高まる中、英国はこの分野での取り組みを牽引しています。英国は、世界で初めて温室効果ガスの排出量削減目標を国内法で定めました。2050年までに80%、2020年までに34%削減するという内容です。これまでのところ、この目標の達成に向けて順調に進んでいます。2011年の排出量は、1990年をベースとすると、29%減少しました。島国であることから、風と海を存分に活用することができます。 英国の洋上風力発電能力は国外の国々の能力を合わせても、それを上回ります。こうした取り組みを成功に導くためには、環境に優しい政策と企業利益が、上手く両立するよう努力する必要があります。英国では、昨年、電力市場改革法案が可決され、低炭素のエネルギー・インフラへの投資について、長期的な政策面の確実性がもたらされました。政策の内容については、企業側との十分な協議を踏まえた上でまとめました。

設定した削減目標を達成することは、持続可能な経済の成長には不可欠であり、それを阻害するものでは決してありません。英国では、100万人が低炭素及び環境関連の製品部門に従事しています。「ブラック・キャブ」と呼ばれるロンドン・タクシーも、2020年までには、排出量ゼロの走行を達成する予定です。 興味深いことに、日産が投入する新型車の外観は、昔の山高帽に似ています!私たちは、日本政府が炭素排出量の削減目標を下げる決定をされたことを大変残念に思いますが、現在も日本側と緊密に協力しており、将来のエネルギーミックスに向けた日本の取り組みを支援していく考えです。

3番目に、英国は、ハイテク分野において、ヨーロッパの中心地であり、ヨーロッパのみならず世界中からハイテク企業が集まっています。ロンドン・オリンピックのために構築したデジタルのインフラも、現在は、デジタルの中心地として急成長するテック・シティに組み込まれています。実は、娘がテック・シティで働いているので、この地域については詳しく知っています。

4番目は、製造業です。英国の金融サービス部門についてはよく知られていますが、製造業の時代は、終わってしまったのでしょうか?それは違います!英国の航空宇宙産業は、ヨーロッパ最大、世界第二位の規模を誇ります。現在、世界の空を飛んでいる民間航空機のうち、その半分に英国製の翼が使われていることを、ご存知でしたか?英国の自動車製造部門は、大変優れていて、車の輸出台数は輸入台数を遙かに上回ります。

ここまで、英国の意外な全体像をご覧頂けたかたと存じます。つまり、英国は「ものづくり」が盛んで、健全な金融部門を備え、ハイテク産業でヨーロッパを牽引し、環境に優しく多様性が豊かであることです。こうした英国の実態に驚く方も多いと思います。

それでは、これが日英関係に、どのように作用するのでしょう?

第1に、日英両国が「自然なパートナー」であることに関してですが、具体的に何の分野において、その関係にあるのでしょうか? 安全保障では、日英両政府は安全保障と防衛分野に関して注目すべき枠組み合意に調印しました。日本が、米国以外でこのような枠組みに合意されたのは英国が初めてです。今後、特定の防衛装備品に関する共同研究や生産が進められます。アフリカ、中東、アジアなどに関するリスク分析についても、協力が強化されるでしょう。アルジェリアにある日英のエネルギー施設に対してテロ攻撃が行われ悲惨な結果を招いたことをうけ、2013年に両国が進めた協力などが、その具体例です。また、両国の艦船がお互いの基地 への寄港回数を増やし、効果的な協力を目指したいと考えており、双方の艦隊の友好的な協力関係を促進します。たとえば昨年、大災害がフィリピンを襲った際、日本の海上自衛隊と英国の海軍が緊密に協力しあい、救済活動にあたりました。日英は、ソマリア沖の海賊行為への対処活動においても協力関係にあります。今後も双方の艦隊の関係強化、また、日英の航空、防衛企業間における一層の協力促進を望んでいます。

英国政府は、日本の多くの方々やビジネス・コミュニティーと同じく、地域の安定を優先事項として捉えています。東アジアは世界経済の成長を可能にする原動力と見なされており、私たちは、地域の不安定化が助長される行動を懸念しています。私達が日本に期待することは、周辺諸国との信頼を築くメカニズムを見つけ出す作業の優先です。領土問題は、政治的な理解を得られるように、また、世界の成長に不可欠な地域経済を害することなく、全ての関係国が参加する形で冷静に解決されなければなりません。

次にエネルギーに関しましてですが、私は、英国の原子力部門への日本の投資拡大を願っています。そして、日本が、将来に適したエネルギーを選択されるなか、英国のサポートも強化されることを願っています。英国は、安全な原子力産業を運営するための専門知識を提供します;除染、廃炉に関する専門知識を提供します。新規の原子力発電所にスキルを提供します。エネルギーの将来に対して現実的、実際的なアプローチをとっています。英国にとり、原子力は極めて重要なエネルギーであり、エネルギーミックスを構成する一部分です。なぜでしょうか?それは、原子力なしには、エネルギーの安全保障、或いは、気候変動に取り組むことができないからです。そして、気候変動を、私たちの繁栄と安全保障に対する大きな脅威と考えるからです。原子力は気候変動対策に不可欠だと考えています。

第3ですが、日本は今、集団的自衛権という難しい問題に取り組んでおられます。これは外部から見ると、なかなか理解しづらい議論です。なぜなら、ヨーロッパや北米の国々は、およそ70年間、集団的安全保障体制の中で機能してきており、それ以外の状態を想像しがたいのです。この体制における最大の利点の一つは、脅威が発生した際、まず対話、協調が可能なことです。私たちは、力(強さ)が平和をもたらし、集団的な力(努力)で平和が実現、維持される事実を受け入れています。ですから、日本がこうした問題を検討される際、諸外国の経験も参考にして頂ければと思います。

終わりに、将来の日本について、幾つか私の思いをお伝えしたいと思います。

私が日本に初めて参りましたのは1977年でした。 以降37年間、日本が発展を遂げる様子を見て参りました。そこで、友人である日本の皆様から私が感じたことを申し上げたいと思います。

まずは、自信を持って頂きたいということです。東京がオリンピックの誘致に成功したのにはいくつもの理由があります。日本は安全で、上手く機能している国です。外国人を歓迎し、教育水準も高く、魅力にあふれています。しかも、経済も回復しています。私は、日本の皆様にも、東京がオリンピック とパラリンピックの開催地に選ばれたことを、もっと祝っていただきたいと思います。このことは、大きなイベントの運営能力という点以上に重要な意味を持つとも言えます。日本が国際舞台に戻ってきた、ということです。

次に、日本の20世紀の歴史について言われている事についてですが、これは、センシティブな分野であり、外部のオブザーバーとしては、特に注意深くお話しするべき事柄です。英国にも、誇りに思うことができない歴史が沢山あり、英国の国際関係に現在も影響を及ぼしていることも事実です。しかしながら、ここで私達が避けるべきは、今、世界の中で果たせる役割と、歴史上おかした間違いとを、混同してしまうことです。過去の過ちを挽回する最善の方法は、おかした過ちを認め、より良い未来を積極的に築き、新旧の友人たちと同盟関係のネットワークを構築するために、法の支配の下に努力することだと考えます。   本日、私は、日本と英国という素晴らしいふたつの国の関係を振り返りました。潮の満ち引きのように、お互いの距離が近くなったり、遠くなったり、そして、再び近くなったりという関係が繰り返された歴史です。現在の両国関係は、潮が満ちている状態であり、今後、更なる関係強化を目指すことができます。

申し上げるまでもなく、日本にとって安全保障や貿易の面で最も重要なのはアジアであり、英国の場合はヨーロッパです。このアプローチは正しく、また当然でしょう。

しかしながら、私が生まれた20世紀に比べ、物理的に近いことの重要性は、現在、相当に低下しています。理由の一つとして、技術の果たす役割があります;航空交通は海上輸送と同じ程重要となり、スカイプ、インターネット、高性能ジェット機の登場などで、私たちを隔てる距離は短くなっています。私自身、幼少期に海外に住んでいた頃は、毎年、英国にいる祖父母と電話で話せたのは、ほんの僅かな時間であったと記憶しています。現在では、英国にいる娘や息子と、毎日のように電話で話すことができます。また、私のツイッターをフォローしてくださる方々も、日本や英国ばかりでなく、ロシア、スウェーデン、中国にもいらっしゃいます。

地理的な問題の重要性が低くなるにつれて、ふたつの離れた国が協力する機会は、より多くなります。400年前、徳川家康は、「国土は万里の雲海を隔てていれども、我らの領域は誠に近し」と言いました。当時これが真実であれば、現在なら、なおさらです。17世紀初頭、発見の旅であったものが、21世紀初頭、再発見の旅となりました。

400年前、日英両国が交換した贈り物は、鎧と望遠鏡でした。自分自身を守ることは、もちろん重要であり、鎧は大変役立ちますが、望遠鏡は非常に有益な贈り物だったでしょう 。望遠鏡を使えば、想像よりも遙かに遠くの世界を見渡せ、友人を見つけ、出会うことができます。望遠鏡は、日英がお互いに発見、再発見し続ける関係の象徴であると感じます。昨年、英国の友人から過去と未来の友情の印として、現代版の望遠鏡が、再び日本に贈呈されました。これまでの、そしてこれからの日英友好関係のシンボルであるその贈り物は、私の公邸に飾ってあります。是非いらして、ご覧になってください!

ご清聴有難うございました。

【質疑応答】

質問1: 大使はご講演で、英国政府が(東アジア)地域の安定に高い優先順位を置いていると仰っています。しかし、現在は特に日中関係が非常に緊張しているのが実情です。大使は日本に期待することとして、近隣諸国との信頼を築くメカニズムを見出す作業を優先していただきたいと語っておられますが、どのようなメカニズムを想定されているのでしょうか。英国のこれまでのご経験などを踏まえて、もう少し具体的にご説明いただけないでしょうか。

A1(ヒッチンズ): 何のメカニズムが適切であるのかはっきり具体的に知ることが出来ましたら、早速、安倍総理にお伝えします。外交官として30年を超える経験から申し上げますと、2カ国間がギクシャクしているとき、それぞれの主張の繰り返しをどうしても避けるべきです。そのやり方も避けなければなりません。2番目は構造的な対立があるとしたら、今完璧な解決ができなくても、将来に向けて千載一遇の好機の準備をしなければなりません。ですから、メカニズムと申しますと、まず首脳会談は非常に重要です。皆様ご存知かもしれませんが、エコノミスト誌(The Economist)のかつてのエディターのWalter Bagehotという人が、英語で“Nations touch at their summits.”「首脳会談で国が接する」というふうに言っています。首脳会談をすることは非常に重要、民間レベルの交流も重要、水面下のコンタクトも非常に重要、報道されてないコンタクトも非常に重要です。わたくしの経験から、インドとパキスタン、英国とイラン、英国とアルゼンチンの場合、そのような水面下のコンタクトは非常に重要だと思っています。将来に向けて準備しなくてはなりません。

質問2: 大使はご講演の中で「今世界の中で果たせる役割と、歴史上犯した過ちを混同してはならない」と仰っています。今、東アジアでは日本と中韓両国との関係が非常に緊張しているわけですが、最近の例では安倍総理が昨年末に靖国神社を参拝して、韓国と中国が非常に怒っているという状況にあります。日本のことをよくご存知である大使のご意見として、アジア太平洋地域の安定のためには、安倍総理は今後靖国神社を参拝すべきでないとお考えでしょうか?もしすべきでないとお考えであれば、その理由を教えていただきたい。

A2(ヒッチンズ): 最後の質問は一番難しいと思います。30年間の外交官としての経験で、こういう質問に直接答える価値はあまり少ないと思いますが、ひとつ申し上げたいことは、精神的な寛大さは非常に重要です。ですから、こういう問題を解決するためには一般的な見方で取り組んでいかなければならないし、自分の同盟国と協力して解決へ進まなければなりませんから、非常に慎重な姿勢で取り組んでいただきたいと思います。

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