日英医療経済学シンポジウム:精神科領域への適用の現状と課題
英国大使館では、日英の医療経済学に関するシンポジウムを開催しました。

うつ病や認知症といった精神科領域の疾患によってもたらされる社会経済的な負担は今後も増大することが予測されています。その一方で、医療や福祉に使える資源への制約もまた、さらに強まると考えられます。このような状況では、限られた資源から最大の効果を引き出すための効率的な資源の活用が重要となります。そのためには、費用対効果分析をはじめとした経済評価の医療政策への応用が欠かせません。
日英両国は急速に進行する高齢化の中で、保健・社会福祉において切迫した財政状況に直面しています。そのような状況下において、限りある資源を最も効率的に使用し、持続可能なヘルスケアモデルを構築するためには、ベストプラクティスや知識の共有等を通じた国際連携の推進が欠かせません。
駐日英国大使館科学技術部は、1990年代から経済評価を医療政策の策定に活用している英国から、2名の医療経済学者を招聘し、2014年1月30日に日英医療経済学シンポジウムを開催しました。
シンポジウムでは、まず、ヨーク大学 医療経済研究所 所長のマリア・ゴダード先生から、英国における経済評価の医療政策への応用について、また、QALY (the Quality Adjusted Life Year)を含む医療経済評価の手法、そして費用対効果とその他の要因が政策決定においてどのように影響をもたらすかについてご講演いただきました。また、英国の医療技術評価をおこなう機関であるNICE (National Institute for Health and Care Excellence)の活動や、NICEのガイダンス等の情報にアクセスが可能な’NICE Pathway’をご紹介いただきました。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスおよびキングス・カレッジ・ロンドン 精神医学研究所のマーティン・ナップ先生からは、特に精神科領域の例を取り上げ、経済評価が政策議論やより良い精神科治療・ケアの実践にどのように貢献できるかについて、また、認知症の家族介護者のメンタルヘルス促進プログラム(manual-based coping strategy)の有効性を評価するSTART(STrAtegies for RelaTives)研究についてもご説明いただきました。
また、日本の経済評価の医療政策への応用の現状を国立保健医療科学院の福田敬先生より、精神科領域の経済評価の現状について慶應義塾大学の佐渡充洋先生よりご発表いただきました。その後のパネルディスカッションには、慶應義塾大学の池上直己先生をモデレーターとしてお招きし、日英両国の現状を踏まえつつ、医療経済評価の手法や政策応用について、フロアも交えて活発な議論が交わされました。最後に、国立社会保障・人口問題研究所所長の西村周三先生より、総括として示唆に富んだコメントをいただきました。
今回の日英医療経済学シンポジウムには、医療経済学者をはじめとする研究者や精神科医師、製薬企業、政府関係者、プレスなど、幅広い分野の皆様から大きな関心が寄せられました。本シンポジウムは、英国ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)のGlobal Partnership Fund (GPF)、および、英国外務省(FCO)のBilateral Programme Budget(BPB)によって開催されました。
英国の医療経済学・精神科領域に関する参考リンク:
Centre for Health Economics, The University of York: CHE offers a programme of workshops and courses for members of the health economics field, including health economists, health care professionals and students. For details, please see: http://www.york.ac.uk/che/courses/short/
Personal Social Services Research Unit (PSSRU), London School of Economics (LSE)
Institute of Psychiatry, King’s College London