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英国に学ぶ、科学的根拠に基づく保健政策と医療決定

科学的根拠に基づく政策の施策と実施、臨床現場での科学的な評価に基づいた医療決定の促進について、英国の経験と知見を日本の関係者と共有することを目的としたセミナーを開催しました。

Japan learns of UK capabilities in evidence-based medicine

2015年12月17日(木)に開催したセミナーでは、科学的根拠に基づいた医療の一例として、ワクチン政策に焦点を当て、医療や政策の専門家、及び企業やメディアからの幅広い聴衆に向けて、英国と日本の経験や知識を交換する良い機会となりました。

日英協力の重要性

英国と日本は、保健政策において、高齢社会という共通の課題を抱えています。限られた政府財源をいかに効果的に使い、持続的で社会に受け入れられる社会保障・医療政策を推進、そして国民の健康と幸福のレベルを上げていくかは、両国が直面する大きなチャレンジであり、また、より良い医療システムを構築していくチャンスでもあります。英国では、医療費の抑制、科学的根拠に支えられた医療方法の促進という観点から、Evidence-Based Medicine(EBM)の重要性が早くから唱えられ、根拠に基づく医療に沿った考え方や手法が、医療現場での臨床判断などに広く浸透しています。

費用対効果の高い医療の提供、そして個人から集団の疾病予防の重要性から、予防接種や検診を含め、予防医療の重要性が益々高まっています。

予防医療の促進は、政策立案者や医療従事者、専門家、製薬会社だけでなく、医療受給者である一般市民が、最新の科学的評価に基づく正確な医療の情報を得て、予防医療のベネフィットとリスクを理解し、適切な医療サービスにアクセスできることが前提となります。エビデンスに基づく医療を推進する中で、あらゆる側面で関係者間の連携は不可欠であり、患者や市民との信頼構築が大変重要といえます。

今回のセミナーは、保健・医療分野において日英間の協力を今後より強化していく上で、両国の経験を共有するよい機会となりました。以下4名の講演者が登壇し、それぞれの立場から科学的根拠に基づく医療決定の重要性について講演しました。

  • クィーンメアリー大学 カリド・カーン教授
  • ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院 ハイディー・ラーソン上級講師
  • 国立感染症研究所感染症疫学センター 神谷元主任研究官
  • 自治医科大学付属さいたま医療センター産婦人科 今野良教授

また、英国保健省主席医務官代理ジョン・ワトソン教授がビデオ・メッセージにて、英国のワクチン政策について講演しました。

講演後、登壇者によるパネルディスカッションが行われました。エビデンス収集のための効果的な公衆衛生サーベイランス・モニタリングシステム構築の必要性、科学的根拠に基づく政策・医療決定を促進するためのパブリック・コミュニケーションと教育の重要性などについて、パネリストの活発な議論、及びパネリストと聴衆間のインタラクティブな意見交換がありました。

セミナーの主要ポイント

  • 国のワクチンプログラムは、安全性と有効性についての十分なモニタリング、透明性と専門家による科学的助言をもとに、科学的根拠に基づいた政策によって管理されるべきである。
  • 科学に基づくエビデンスは、政府の医療政策をサポートすることができ、また、一般市民とメディアへの迅速かつ明確なコミュニケーションをサポートすることもできる。
  • 政府から一般市民、医療従事者、メディアに向けて、効果的なコミュニケーション、及びリスクとベネフィットの情報を含む予防接種についての一般教育が重要である。
  • 有害事象への対応、潜在的な有害事象の背景率の疫学的サーベイランスを含む戦略は、ワクチンプログラムを開始する前に策定するべき。戦略は迅速かつ透明性があり、すべてのデータを確認することができる体制を構築することが必要となる。

登壇者からのコメント(要旨)

自治医科大学付属さいたま医療センター産婦人科 今野良教授:

「予防接種プログラムは、科学的根拠に基づいて行われるべきであり、専門家による有効性と安全性の評価・サーベイランスを、透明性をもって実行されるべきです。ワクチンは、現代医学の有効な疾病予防の手段であり、その適切な理解のための国民への良いコミュニケーションが求められます。メデイアにおいても科学的で冷静な、世界的視野での報道が求められていると思います。英国で行われているような疫学的なサーベイランスシステムの整備、予防接種制度への信頼性確保と維持を、日本の予防医療行政の大事な柱として、リノベーションする必要を痛感します。英国と日本の科学的交流が、今後の国民の保健政策に寄与することを期待いたします。」

国立感染症研究所感染症疫学センター 神谷元主任研究官

「日本で議論されているワクチン接種後の有害事象に関する調査、研究は世界的な基準からみるとまだまだ改善が必要であることを改めて痛感しました。しかし、改善点が多いなかで行われている日本での議論、対応、さらに正しいリスクコミュニケーションが行われていないことで世界にも多大な影響を及ぼしていることを認識しました。ワクチンが世界の諸外国並みに接種できるようになった今、ワクチンを取り巻く環境も同様に世界水準に達する必要があると感じました。」

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